横浜市民ギャラリーは丘の上にあるので、毎日の出勤がけっこう大変ですね(笑)。ただ、坂を上るからこそ、立ち止まってふと振り返るとランドマークタワーが見えたり、海風に吹かれたりして、そうした瞬間に横浜を感じています。
横浜市民ギャラリーの周辺には由緒あるお寺や神社があって、お昼休み等にたまに散歩をしています。また、少し足を伸ばして紅葉坂を抜けると、県立音楽堂や県立図書館、財団が運営する能楽堂があって、とても文化的なんですよね。丘には文化施設が密集しているのに、海に視線を移すととてもキラキラしたきらびやかな街が広がっている。働き始めた当初、このコントラストを不思議に感じたことを覚えています。
「横浜でアートを仕事にする」とは?
財団で働く仲間のリアルな声を紹介します
QUESTION 1 入職された経緯を教えてください
大学院では銅版画を専門に学んでいて、卒業後は母校での助手や非常勤講師、銅版画講座の講師といった教育に関わる仕事をしていました。その後は、名古屋市の美術館での勤務を経験してから大阪府で中学校の教員をしていたのですが、家庭の事情で大阪を離れることになってしまい……。それでアートに携わる仕事を探していた時に、たまたま財団の募集を見つけたという経緯です。
私は学芸員の資格を持っていないのですが、教員免許だけでも応募できるエデュケーターという仕事があることをその時に知りました。教員の「教える」や「(生徒を)ケアする」といった仕事とは異なる、教えるだけではなく、私の好きなアートを人と「繋げる」という仕事が、とても魅力的に思えたことも志望した理由です。
QUESTION 2 現在の業務内容について教えてください
横浜市民ギャラリーには市民の皆様の創作活動に使えるアトリエがあり、通年で財団が企画する様々な講座を催しています。中学生以上が対象の『大人のためのアトリエ講座』と小学生以下が対象の『ハマキッズ・アートクラブ』があるのですが、前者の企画・運営が私の主な担当です。講師として教えると言うより、皆さんの自主的な学びをサポートする感じでしょうか。幅広い年齢層の方が参加してくれていて、年齢を問わず、生活の合間にもの作りを楽しむ人たちの姿を見るのも、それをサポートするのも、本当にやりがいがあって楽しいです。
その他には、横浜市民ギャラリーが主催する展覧会の準備や広報も担当しています。まだ入職して間もないこともあり、先輩方に教わりながら業務を覚えている状況です。
QUESTION 3 これからどんな仕事を手がけていきたい?
アートという言葉は広くて、すべてがそうとも限らないかもしれませんが……アートそのものには、人の気持ちをプラスの方向に動かしたり、背中を押したり、ケアしたり、心の拠り所になったりする力があると思っています。だから施設に来てくださるお客様に限らず、いろんな方々に人生の合間合間でアートに触れてもらいたいし、楽しんでもらいたい。
まだ1年目で、エデュケーターの役割を俯瞰できているわけではないものの、きっと、そのきっかけ作りができる仕事だと思っています。
QUESTION 4 働く舞台としての財団の特徴は?
財団が自分たちの基本的価値観として掲げている、「アートの力を信じる」「アートでつなぐ」「アートで拓く」という言葉が好きなんです。これからいろんな仕事をする中で、つまずいたり後ろ向きになったりすることもあると思いますが、アートの力を信じて、人とアートを繋ぎたいと思っている人たちと一緒に働けるなら、大丈夫な気がしています。
実際、職場の皆さんはとても優しく親切に教えてくれたり、相談に乗ってくれたりしています。そのような温かい職場だったことは、働き始めてからすごく安心しました。
QUESTION [EXTRA]
現役の銅版画作家として、
アートと人を繋ぐことは意識していますか?
作品作りは必ずしも人に何かを伝えることが目的ではなく、手を使って世界に触るようなことだと感じています。私の場合、よく見えない視界や、判然としないものをどうしたら描けるのかといった問いかけが初めに立ち上がり、手を動かしながらその問いかけに応えていく感覚なんです。問いかけは自分のコントロールが及ぶ外にあって、手を動かしながら不思議なものと出会い、よくわからないけれども作品として成り立ってくる。そうして何かが生まれてきた瞬間に面白さを覚える……というか。初めから「こういうものを作ろう」と決めると、私の場合はそういう謎めいたことが起こらないんですよね。
だからエデュケーターとしては人と密にかかわるし、アートと人を繋ぎたいと思っているのですが、作家としての作品作りにおいては、アートは必ずしも誰かと繋がらなくていいと考えているんです。人からもよく、「不思議なバランスだね」と言われます(笑)。