INTERVIEW

「横浜でアートを仕事にする」とは?
財団で働く仲間のリアルな声を紹介します

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横浜美術館 学芸グループ

学芸員

飯岡 陸

2024年入職

中途採用(前職は美術館勤務) → 横浜美術館
(2025年8月インタビュー時)

QUESTION 1 入職された経緯を教えてください

美大の制作学科にいたのですが、入学してすぐに自分には表現したいことがないと気づいたんです。けれども学生同士でグループ展や勉強会などを企画するうちに、自分の能力や関心はアーティストを支える側にあると考えるようになって、在学中からキュレーションを始めました。
その後は芸術理論を扱う大学院を経て、都内にある現代美術専門の美術館の学芸チームで6年弱勤務しました。いくつかのプロジェクトに従事し、広い観客層を対象とする国際的な企画に関わることで視野が広がったのですが、もう少し特定の地域や美術史に根ざした美術館で働きたいと考えて、財団の採用に応募しました。財団には横浜美術館だけでなく2 つの市民ギャラリーがあり、創造界隈拠点があるなど、文化の土壌があること、生きたアーティストと近い現場であることに魅力を感じたんです。

QUESTION 2 現在の業務内容について教えてください

企画展やコレクション展の準備、それらと並行しての定常業務が学芸グループの仕事です。コレクションは本来、保存管理の観点から専門で分かれているのですが、私の専門である現代美術という区分は設けられていないため、写真・映像、彫刻、建築と幅広く担当しています。また、定常業務はチームが分かれていて、私は主に作品の収集と保存研究、広報・広聴などを担当するチームに属しています。
近代以降の美術を様々な分野にわたって扱う横浜美術館は、各学芸員が異なる専門性を持っているのが特徴です。館の広範な活動やコレクションに広く目を配ることが求められますが、展覧会や分野担当の割り振りでは各自の専門性や意向を尊重してもらえます。学芸グループの意思決定では合議が重視されていて、それぞれが考えを言葉にし、異なる意見も尊重しながら、館の指針を寄りどころに合意形成をしていく過程は興味深く、気づかされることが多いです。

「新たにむかえた作品たち――生活・手仕事・身体」ギャラリーツアーの様子
「新たにむかえた作品たち――生活・手仕事・身体」ギャラリーツアーの様子

QUESTION 3 これからどんな仕事を手がけていきたい?

横浜美術館ではリニューアルにあたって、『みなとが、ひらく』というミュージアムメッセージとともに『ステートメント』と『5 つの願い』を策定しました。年齢、性別、出身、障がいの有無等に関わらず、多様な人びとに美術館をひらくことを目指すものです。こうした観点から『おかえり、ヨコハマ』展と同時開催のコレクション展『新たにむかえた作品たち――生活・手仕事・身体』を担当したのですが、引き続きこのビジョンを業務のなかでどのように具現化するか、そのためには何ができるのか向き合っていきたいと考えています。
人やもの、考えと関係を持ちながら、いかに価値観に変化を促せるか、その動的なプロセスに関心があるので、多様な来場者、同僚、かたちをもった美術作品と「ともに考える」ような仕事を手がけていきたいです。

QUESTION 4 働く舞台としての財団の特徴は?

何かしら芸術に携わりたいという思いで入職した方がほとんどなので、芸術を信じている方たちと働くことのできる安心感があります。
また、入職する際に伺った、「財団の年齢構成を要因として、ここ数年で一定数の職員が定年を迎え、新しい職員が入職することになる」というお話が印象に残っています。財団という組織としては、これまで先輩たちが作り上げてきた財団や事業のイメージがありますが、これからは自分たちが作り変えていかなくてはならないタイミングということですから。
だから、財団らしさについて先入観を持たず、これからの文化はどうあるべきか、新しい文化や都市の姿を作り上げたいという意欲のある方が仲間になったら嬉しいですね。

QUESTION [EXTRA] 自身の学芸員としての特徴を
どう捉えていますか?

表現したいことがないからキュレーターを志したと言いましたが、実はいまも制作の延長で活動しているという感触を持っています。例えば、アーティストと同じ目線から作品を読み解いたり、創造的な対話からアイデアを膨らませたり、ダイアグラムを用いて展覧会のコンセプトをつくったり、あるいはキュレーションの方法論自体を再考しているようなところがあります。
美術館の学芸員の役割は、第一にコレクションを拡充しつつ、保存や調査、研究をしていくことです。
ただ大学院の頃から続けている執筆活動もそうですが、私は芸術活動の前提となっている言説・制度・インフラに関心があります。また作品と同じくらい作家の生き方や思考に関心があり、社会・歴史と事物・自然の絡まりあいからそれを捉えようとしている点に特徴があるかと思います。文化的に多様な文脈を持ち、自然の多い横浜はこうした視点を発展させるのに向いていると思いますし、この街で、美術を生活と地続きのものとしてひらいていきたいです。

(左上)第7 回昌原彫刻ビエンナーレ2024「silent apple」(韓国)のために提供したダイアグラム
(右下)「批評としての《ケア》」(特集「ケアの思想とアート」内)『美術手帖』2022年2月号

働く中で“横浜”を感じていますか?

出勤時・退勤時・あるいは昼食時に職員通用口のある西口を使うと、いつも風が吹いているんです。ただのビル風の可能性もありますが強風であることが多く、この風が海からやってきたものであると意識する時に、横浜を実感します。
他には私は散歩が好きなので、休日を使って横浜市のいろいろなところを散策するようにしています。
三溪園に足を運んだり、アーティストを誘って野毛山動物園や横浜市歴史博物館に行ってみたり、中華街で朝からお粥を食べたり、鶴見川沿いや、港南台駅から鎌倉まで抜けるハイキングコースをひたすら歩いたり。あとはそこに住む人たちを想像しながら住宅地を歩くのも好きですね。これらは人々の生活や社会、歴史とのつながりから現代美術を扱おうと考えている自分にとってのインスピレーション源にもなっています。

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