CROSSTALK

同期3人のフランクな会話を通して
エデュケーターの仕事を深掘ります

座談会の様子

多様な職種で成り立つ財団ですが、なかでも美術の教育普及事業を担当するエデュケーターは特徴的です。
ここでは、同じ2023年に入職したエデュケーター3人の座談会をお届けします。
財団のエデュケーターはどんな仕事をしているのか?
館ごとに異なる働き方にもご注目ください。

※本記事の内容は参加者プロフィールも含め、すべて2026年7月時点のものです

座談会メンバー

箱山 朋実

横浜市民ギャラリー

箱山 朋実

アトリエ講座やインターン、ボランティア活動などの教育普及事業を担当。教職員経験があるほか、銅版画家の顔も。座右の銘は「つくりながら、手で考える」。

どんな人?

大山

物事に真摯に向き合う
会うと安心する人

瀧口

何事にも真面目で真剣
頼りになる人

大山 元菜妃

横浜市民ギャラリー あざみ野

大山 元菜妃

小学生以下の子ども、個別支援学級、教員対象の事業や、子どものための展覧会企画などを担当。愛読本は為末大『走る哲学』。

どんな人?

箱山

やさしさあふれる
聞き上手!

瀧口

いつもやさしく
包み込んでくれる人

瀧口 桃

横浜美術館 教育普及グループ

瀧口 桃

鑑賞プログラムを中心に学校連携事業、館内のアクセシビリティに関する取り組みなどを担当。座右の銘は「In the end, everything is a gag.」

どんな人?

大山

小さな変化に気づき
柔軟に学び続ける人

箱山

会うと元気をもらえる
まっすぐな人!

エデュケーターって、どんな仕事?

箱山 箱山

私は横浜市民ギャラリーでエデュケーターをしていて、今年で4年目です。現在は大人向けと子ども向けのアトリエ講座や展覧会のボランティア、大学・大学院生のインターンシップ、地域の社会課題にアプローチする事業などを担当しています。
直近では「横浜市こどもの美術展」が迫っているので、ここ数日は展示作品の受付やボランティア説明会の準備などで忙しい!

大山 大山

私は横浜市民ギャラリーあざみ野でエデュケーターをしていて、実は私も4年目です(笑)。

瀧口 瀧口

3人とも同期だからね(笑)。

大山 大山

今は、小学生までを対象にしたアート講座の企画と、個別支援学級・特別支援学校等を対象とした造形活動、新進アーティストを紹介する小展示の企画などを担当しています。
直近だと夏休み期間恒例の「あざみ野こどもぎゃらりぃ」が開催間近で、今まさに佳境! あとは学校にアーティストを派遣する「横浜市芸術文化教育プラットフォーム」事業のいくつかも私の担当です。

箱山 箱山

うっかり言い忘れてしまいましたが、私もプラットフォーム事業を担当しています(笑)。
「横浜市こどもの美術展」では子どもたちの作品を展示していますが、「あざみ野こどもぎゃらりぃ」は、アーティストが子どもたちのために作品を展示していますよね。

大山 大山

「みて・つくって・体験する」というテーマを大事にしていて、子どもたちが小さい時からアートやアーティストに出会うことで、いろいろなものを見る力や創造する力を養えるのでは? と考えています。アーティストの方々には“子どもたちが来る場での作品展示”を前提に参加いただいています。

箱山 箱山

アーティストや企画側の「子どもたちに届けよう」という思いが感じられて、私は毎回元気をもらっています。展覧会の企画って学芸員がするものというイメージがあるので、大山さんみたいに “展覧会の企画”も担当するというのは、エデュケーターの仕事を知らない人が聞いたら驚くかもしれませんね。“講座の企画”は想像しやすいと思うけど。

大山 大山

私も財団のエデュケーターとして、展覧会の企画からアーティストの選出まで行うとは思ってなかった(笑)。

箱山 箱山

一方で、瀧口さんはすごく大きな職場で働いているのが、私たちとの違いですよね。

瀧口 瀧口

私は横浜美術館でエデュケーターをしているのですが、配属された当初は大規模改修工事で美術館が休館中だったため、プログラムごとに組まれた複数のチームの中でいろいろなことをやっていました。
改修後の美術館に引っ越す準備だったり、市内の学校や地区センターなどにアウトリーチに行ったり、横浜トリエンナーレを横浜市内の子どもたちに見に来てもらうためのプログラムをやったり。2年目からは「子どものアトリエ」「みんなのフリーゾーン」というプログラムの運営を担当するようになって……あ、あとプラットフォーム事業は私も担当していました。

大山 大山

エデュケーターがプラットフォーム事業を担当するのはどの館も共通ということですね。学校にアーティストを派遣するのは、まさしくエデュケーターの仕事という感じがします。

同じ職種でも館によって仕事が異なる?

箱山 箱山

そういえば2年目のとき、横浜美術館に所用で立ち寄ったら、たくさんの子どもたちとボランティアさんの真ん中で瀧口さんがインカムを付けて「フリーゾーン」を仕切っていて、「かっこいい〜」と思った記憶があります。

瀧口 瀧口

うれしい。

箱山 箱山

私が市民ギャラリーで担当している「ハマキッズ・アートクラブ」は講師や参加人数やテーマが決まっているけど、「フリーゾーン」って講師が進行するのではなく、参加した子どもたちが自分で素材を選んで、自分の手で自由に造形活動を楽しめるのが特徴ですよね。あざみ野には「親子のフリーゾーン」、横浜美術館には「みんなのフリーゾーン」があるけれど、担当していて難しさを感じないですか?

瀧口 瀧口

実は学生のころに横浜美術館の「子どものアトリエ」でインターンをして、「フリーゾーン」に参加したことがあったんです。それで「美術館で催される教育普及目的の造形的なプログラムって、一度に数百人が参加するこんなに大規模のものなんだ」という認識を持ってしまって……。

大山 大山
箱山 箱山

(笑)

瀧口 瀧口

後に一般的な美術館や博物館について学んだところ、どうやら“あそこ”は特殊らしいぞ……と(笑)。ただ、すごく特徴的でユニークな取り組みだとわかったことで、やりがいは強まりましたね。

大山 大山

私は他県の美術館の教育普及に携わっていたので、財団で実施されているプログラムの充実ぶりに以前から注目していました。

箱山 箱山

私たちの館はどこも講座が充実していますよね。私も最近になって子どもの講座の主担当になったけど、保護者の方への説明が特に大変だなと感じます。
講座の目的をわかりやすく伝えるのもそうだし、真剣に取り組んでいる子どもを写真に収めたい親心を「今は子どもたちが集中しているので……」とお願いするのもニュアンスが難しい……。
それで、そんな悩みを担当講師の方に相談したら、「あざみ野の大山さんを見るといいよ! DJ力ハンパないよ!」って言われたんです。

瀧口 瀧口

DJなんだ(笑)。

大山 大山

DJ OHYAMAでやらせてもらってます(笑)。

箱山 箱山

大山さんはマイクパフォーマンスといいますか、参加者への声掛けが本当に上手!
瀧口さんは横浜美術館がリニューアルオープンしてからは別チームでまったく違うことを担当するようになりましたよね?本当に大変だったろうなって思います。

瀧口 瀧口

昨年から鑑賞プログラムなどの担当に変わったんですけど、私はもともと造形と美術教育が専門で作ることをメインにしてきたので、やってみたかった仕事でも、いざ担当するとなると焦りました。
それで「イチから勉強せねば」と一念発起していたところ、すぐに「ギャラリートークで喋ってください」ということになり……。ワークショップと違って、お客さんに向けて展覧会や作品について話すなんてまったくやったことなかったけど、挑戦をするチャンスをもらえたのは結果的によかったです!

大山 大山

瀧口さんなら出来るはず!と信頼されていたからだよね。

瀧口 瀧口

ただそうして担当が変わってやることの幅が広がったことで、美術館全体のありようを見つめ直すきっかけになりました。作品があって、研究して、それを展示して、解説して、教育があってというサイクルの中で作品をベースに考える。脳みその動き方がけっこう変わった気がしますね。
あと、横浜美術館がリニューアルオープンに際して「あらゆる人を歓迎する、どんな人にも居場所がある」と掲げていて、その一環である“アクセシビリティ向上”にも取り組むことになりました。アートとアクセシビリティについて勉強するのはとても楽しいです。

箱山 箱山

アクセシビリティの向上はどの施設も大切にしていることですが、横浜美術館は展示室も含めて来館者数が特に多く、いろいろな人たちが訪れる館だから、アクセシビリティもより幅広い対応が必要になりますよね。

瀧口 瀧口

横浜美術館のアトリエは版画や絵画、彫刻、陶芸といった多様な制作設備を備えていて、その専門的な創作活動に対応できるエデュケーターがいます。ほかにも学芸員、司書、施設・経理・広報・庶務担当の職員や、職員以外にもいろいろな職種の人たちがたくさんいて、来館者数だけでなく職員数でも施設の大きさを感じます。

箱山 箱山

一方で市民ギャラリーは、「こんなに少ない人数でこれだけの数の事業を行うんだ」と入職してすぐの私はびっくりしました。もちろん少人数のチームにもメリットはあって、意思疎通が早くて進行しやすかったり、自分のアイデアが形になりやすかったりという良さもあると思います。

大山 大山

あざみ野も少人数のチームだけど、事業は活発で午前と午後の1日2回講座をやることも多いですね。

箱山 箱山

すごい! 私たちってエデュケーターという同じ職名ではあるけど、館によって少しずつ仕事が違うんですよね。共通部分があるとしたら、子どもであれ大人であれ、お客さんの反応を直に感じながら仕事をするところかな。

瀧口 瀧口

あとはボランティアやインターン、アルバイトスタッフ、横浜市内のさまざまな施設の方など、立場や組織が異なる方々と一緒に仕事を成し遂げるところも、エデュケーターで共通していると思いますね。

入職の前と後で感じたギャップとは?

箱山 箱山

これまでのキャリアでは中学校や大学で“教える”ことがメインだったこともあって、財団の募集要項で「エデュケーター」という職種を見たときも“学びの場を支える仕事”を想像していたんです。
そしたら“学びの場を支える仕事”は間違いではないものの、準備段階における事務手続きの多さにびっくりしました。「なるほど、横浜市の外郭団体として、ひとつひとつ丁寧な手続きが大切なんだ!」って。
他にも、小さい館だからこその任される業務の幅の広さにも驚きました。最初は本当に何もわからなくて、仕事のスピードも遅かったし、すごく打ちひしがれました(笑)。
そういう入職前と後で感じたギャップってありますか?

瀧口 瀧口

さっきも言ったとおり横浜美術館の教育普及グループは手がける事業の範囲が広いので、担当次第でジョブローテーションみたいなことが発生するのには驚かされました。同じグループの中で同じエデュケーターという肩書きで働いているのに、仕事がまったく変わってしまう。
私は異業種から転職してきたので、インターンで多少のイメージは持てていた横浜美術館の配属でよかったなと思います。ただ施設の規模によって、仕事のプロセスやスピード感も違うので、2人を見たときは、「私が市民ギャラリーに行ってたら、どんな仕事をしてたんだろう」って思いました。

大山 大山

あざみ野も市民ギャラリーも、早い段階から事業の主担当をまかせてもらえることも多いですよね。

箱山 箱山

財団全体での研修もあるし、OJTで本当に丁寧に教えてもらえるのですが……教えてくれる方も忙しい。だから財団のエデュケーターには、自分で考えて調べながら進めることが好きな人が向いているかもしれません。「自分で走る力」がある人というか。

瀧口 瀧口

そうですね、あとは自己修正力も必要。

箱山 箱山

「自分で走る力」の表現に倣うと、大山さんは入職直後からトップスピードで走り抜けているイメージが……。

大山 大山

もうね、私はたぶんギャップに気づけてないまま来ちゃっていて(笑)。

箱山 箱山
瀧口 瀧口

(笑)

大山 大山

4年目になってようやくいろいろなことに気づき始めた感じです。「この事業ってこんなにやることがあるんだ」とか「立ち止まって考えたら、この事務作業多すぎるよな」とか、経験を積んで判断力が養われたことで、抱えている仕事を客観視できるようになったのかな? なんか最近の私、不思議と冷静です(笑)。

エデュケーターとしての目標は?

箱山 箱山

ここまで話してきたように、いろいろな仕事を含んでいるのが財団のエデュケーターの面白さですよね。オールマイティになんでもこなすことが求められるかと思えば、専門性を高めることが求められもする。私たち3人だけでもこんなに業務内容が違うのに、財団にはもっとたくさんのエデュケーターがいて、それぞれがまた異なる業務をしているという。
そうやっていろんな働き方ができるから、その時々で新しい目標が生まれる仕事ですよね。また、異動によって新しい仕事に出会えるので、常に新しい挑戦がある仕事だとも思います。

瀧口 瀧口

入職当初は、早く施設に貢献できるようになることが目標でした。自分で企画したプログラムを実現したり、より多くの人に豊かな経験を提供したり。でもいろんな挑戦をさせてもらって、経験を積めば積むほど、狭く深いピンポイントなやりたいことが増えていて……今は「将来こうなりたい!」と一概に言えなくなっているのが、正直なところです。

箱山 箱山

それって、成長したからだと思う!
実は私は最近、「安心感」というのが大事なキーワードになっていて……。2024年の冬に、詩人の大崎清夏さんを講師に迎えて絵画作品を見ながらみんなで1行ずつ詩を書いて繋げていく「連詩」のワークショップをやったんですけど、本当に素敵な詩ができあがったし、詩作を通じて参加者同士で素敵なコミュニケーションが生まれて、心から「いいワークショップだったな」って思えたんです。そしたら参加者の方から「辛いことがあって参加を迷っていたけど、ワークショップのおかげで久しぶりに苦しい気持ちから解き放たれて、楽しい時間が過ごせたことに感謝します」というメールをいただいて、その言葉にすごく心を動かされたんですよね。改めて、生活の中で「安心」であることの価値を感じたというか。
だから、学びを生み出すことも大事だけれど、そこにいるだけで安心できる場を作れるエデュケーターになりたいと、今は思っています。

瀧口 瀧口

箱山さんはすでにそうなれていると思うけどな。

箱山 箱山

本当? うれしい! 

大山 大山

私の目標は、館やアートと接点のない人たちについても考えられるようになることかな。「子どものためのプログラム」という事業を例に挙げると、実際に来てくれた子どもたちに「いい顔になって帰ってほしい」と思うのは当然として、参加しなかった人たちにも、そうした事業の価値を伝えたい。そのためにアートと教育を開いていくことも、エデュケーターの大事な仕事だと考えています。

箱山 箱山

その考えは、今年度のあざみ野の「子どものためのプログラム」のチラシに現れてますよね。どういう思いでこのプログラムをやっているのか、どういう風に子どもたちに育ってほしいと思っているのかが伝わってきて、「こんなに素敵な事業をやってる施設があるなんて、横浜っていいところだな」とポジティブな気持ちになりました。次のチラシで真似させてもらおうと思います(笑)。

——同期3人の仲の良さのおかげか、収録現場にはずっと和気藹々とした空気が流れていました。

同じエデュケーターでも館によって仕事はさまざま。それでも人とアートをつなぐ思いは共通しているようです。

その仕事の魅力、伝わったでしょうか?

エデュケーターの1日

財団で働くエデュケーターは、いったいどんな1日を送っているのか?

横浜市民ギャラリーの箱山さんをモデルに、「講座のある日」と「講座のない日」のタイムスケジュールを紹介します。

講座のない日のタイムスケジュール(箱山朋実編) 講座のある日のタイムスケジュール(箱山朋実編)